- 作者: 小林美希
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/08/20
- メディア: Kindle版
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「保育士おとーちゃんの子育て日記」というブログを読んでます。 タイトルの通り、保育士をされているお父さんが、保育士の立場からどう子どもと接するのがよいかというようなことを書かれています。
『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」 (PHP文庫)』という本も執筆されてて、もちろん読みました。いい本でしたよ。これから子育てする(している)お父さん、お母さんは読んどいて損はないと思います。
今回読んだ本はそのブログで以前紹介*1されており、気にはなってた本。いつか読もうと思って、欲しいものリストに入れていました。
すると先日、別のルートでこの本を知った妻から「この本読んで、ブログに書いといて」みたいなことを言われました。
「え、なに?ブログに読んだ本のこと書いてるの知ってるの?「書いといて」って、えっ、なに?」
まぁ、ちょうど読みたかった本だったし、Kindle版をポチッとして読んでみました。
目次
第1章 保育の現場は、今
第2章 保育士が足りない!?
第3章 経営は成り立つのか
第4章 共働き時代の保育
第5章 改めて保育の意味を考える
読み始める前に
少子化って言われてますけど、保育園に入れるのって大変ですよね。働きたい(働かないとけない)から子どもを預かって欲しいのに、働いてないからポイントが低くなって優先度を下げられてしまうとか。保育園に入れるための活動「保活」なんて言葉を聞いたりもします。
いざ保育園に入れても「大丈夫かな。うまくやっていけるかな。」とわが子の保育園での生活を心配したり、「担任の先生、どんな先生かな。ちゃんと見てくれるかな」って余計な不安を抱いたり。
我が家の三歳児はいい先生、いい環境に恵まれて、毎日楽しそうに登園しています。それが普通なんだと思ってました。時々、ニュースなどで悪い話を見聞きすることがあっても、それは遠い世界の話のような…
以降、文体変えます。
読んでみて
前書きにこう書いてある。
保育の質が低下しているのは、なぜか。それは、待機児童の解消ばかりに目が向き、両輪であるはずの保育の質、その根幹となる保育士の労働条件が二の次、三の次となっているからだ。
位置No.32
確かに、保育園の先生を見ていると忙しそう。送り迎えの時間が始まる7:30頃には保育園に来てて、お迎えの18:00*2まではいてくれる。早番、遅番みたいなシフトはあるだろうけど。日中は子どものことを見てくれてて、その合間に保護者との連絡ノート書いたり、自分が知らない事務仕事もあるんだろう。おまけに、この時期だと運動会の準備とかで手作りの衣装を作ったりしてくれてるはず。
それくらいの見てわかる情報から、「忙しいんだろうなぁ。子ども相手だから大変だし、難しい仕事だよなぁ。」とぼんやり想像してた。
でも、この本で保育の実情を垣間見た結果、もっと保育士の先生に感謝しなきゃって思うようになった。そして、「保育園に預けてるから大丈夫」という思考停止になっちゃいけないってことも。
いきなり読むのが辛い
第1章のはじめに実際にあった保護者の体験や著者が直接保育所に取材してわかったことが書き連ねてある。その一部を引用すると、
保育所を出ようとした時、忘れ物に気づいて戻ると、子どもは嗚咽して鼻水をたらし、髪がびっしょり濡れるほど汗をかきながら泣いていた。しばらく、こっそりと様子を見ていたが、太郎君は保育士の誰からも声をかけられずに放置されていた。
位置No.163
太郎君と書いてあるが、自分の子どもに当てはめて状況を想像してしまう。自分の子どもがこんな状況に置かれていたらと思うと涙が出そうになる。これ以降にも読むのが辛くなる話が続く。信じたくないけど、現実にあった話。
「この保育園」に預け続けて良いものだろうか
こんな悩みを抱いた人って多いんだろうか。自分は考えたことなかった。冒頭に書かれているような保育園に行ってたら100%そう思うだろうけど。
自分自身、三歳までは家にいて四歳から保育園に行ったこともあり、「保育園に行かすこと」については悩んだ。三歳までは親の傍でしっかり見てやるべきなんじゃないかと。
でも、今は預けてよかったと思ってる。保育園に行くことで、経験できることもあるし、多くの先生(大人)をはじめ、同い年、年長さん、年少さんの子とも関わりを持つこともできるだろうし。そんな風に思えるのはいい先生、いい環境に恵まれたからだろう。
保育士の実体
保育所で働いている保育士は、二〇一三年度で三七万八〇〇〇人となる。その一方で、保育士の資格を持ちながら実際には保育士として働いていない「潜在保育士」は、六〇万人以上にも上る。
位置No.60東京都による「東京都保育士実態調査報告書」(二〇一四年三月)によれば、現在、保育士として働いている人のうち、離職を考えている人の割合は全体で一六%と、六人に一人になる(図2‐1)。公設公営より民設民営のほうが就業継続の意向が低い。退職意向の理由は、一位「給料が安い」、二位「仕事量が多い」となっている。
位置No.747全国福祉保育労働組合(福祉保育労)が行った「福祉に働くみんなの要求アンケート」(二〇一五年)の保育所保育士版(二〇〇八人の保育士が回答)では、「普段の仕事での心身の疲れについて」を尋ねており、「とても疲れる」(四六・七%)、「時々疲れを感じる」(四九・七%)で、ほぼ全員が疲れている状態だ。「仕事や職場で強い悩み・ストレスを感じますか」の問いには「常に感じる」(一八・八%)、「時々感じる」(六一・八%)とストレスも強い。ストレスの原因は「責任や業務量の増加」が突出して三九・四%となっている。
位置No.752
約100万人の保育士資格を持ってる人のうち、約6割が保育所で働いてないのには驚いた。6割のうちどれくらいの人が保育所で働いて、辞めていったんだろう。その後に出てくる数字を見ると、何となく働いたものの、続けられなくて辞めていった人が多いのかなと想像してしまう。
人間としての基礎が作られる幼少期。そこでどういう関わり合いをするかでその子の人生は大きく変わっていく。そんな時期の子ども達を預かる保育士は専門知識はもちろん、人としてもいいものを持ってないと勤まらないだろう。
保育士は「子どもの面倒を見る職業」ではなく「無限の可能性を秘めた子供たちの基礎を作る職業」と言えるんじゃないか。 「子供が好きなんで~」くらいの理由ではとても勤まりそうにない職業であろう。
そんな保育士が抱える責務に見合わない安い給料で、疲れ果てながら働いている。将来の国のことを考えたらお金を使うべきはここなのではないか。
子ども主体の保育
この本では規制緩和により、株式会社が保育の分野に参入してきており、それが保育の質の低下を招いているのではないかと提起している。
基本的に株式会社は利益を追求するものなので「保育の質(≒子どもを育てる≒保育士の労働条件)」が二の次になるというのは理解できる。そして、客寄せのために「親に受けがいいサービス」を提供するというのも想像がつく。
親のニーズがあるとはいえ、英語とか、足し算引き算、ひらがなの読み書きができるようになりますというようなキャッチコピーに惑わされないないようにしないといけない。
大事なのは子どもが五感を使って色んなものを感じたり、他人とコミュニケーションを取ったり、自己肯定感があるとか、自分で判断できるとか、嫌なものは当たり前に嫌と言えるとか、そういった人としての基礎となる部分をしっかり育てることだと思う。
もちろん、全ての株式会社が悪いわけではないし、後半に信念を持って取り組んでいる会社の紹介もある。ただ、残念だけど「保育」の分野で稼ぐことを第一の目的にしている会社も少なからず存在するということだ。
そういった園かどうかをより見極めないといけない時代になってるということだろう。
待機児童ゼロ
私が住んでる松山市でも昨年、待機児童がゼロになったという話があったようだ。
今まではこれを見て、「おお、松山市がんばってるやん」くらいにしか思わなかっただろう。でも、この本を読んで「しかし、保育の質はどうなの?」ということを気にするようになった。
一人の親として、わかりやすい数字に惑わされないようにしたい。
さいごに
保育園に預けようと考えている親は一度この本を読んでおくいいと思う。 現状を知る、こういう保育園もあるということを知るという意味でね。
親自身が苦しい思いをしたり、後悔するのは大した問題じゃないが、子どもに辛い思いはさせたくないはず。「働かないと」と焦る気持ちはあるだろうが、子どもの一生に関わる問題でもある。その辺を考えて預けるか、預けないか、どこに預けるかを考えた方がいいんじゃないかな。
とはいっても、育休終わるしとか、いろいろ家庭によって事情はあるだろうから難しいよね。
自分たちの行き方も見直した上で、定員割れしてる田舎に引っ越して、そこに預けるというのも一つの手段かも。田舎で自然に触れ、地域の人に声を掛けられ、子どもにのびのびと育ってもらうというのも良いかもしれない。
おしまい。
*1:保育士おとーちゃんの子育て日記 『ルポ 保育崩壊』(岩波新書)
*2:延長保育を含めると19:00